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京都大学 医生物学研究所

2019年6月10日に京都大学ウイルス・再生医科学研究所第5回個体の中の細胞社会学ワークショップを開催しました。

第一部は、金沢大学の松浦顕教博士の「Regulation of programed cell death by ubiquitylation」として、細胞死の新たな制御機構について講演いただいた。前半では、ユビキチンリガーゼのひとつであるUBR5の活性上昇が、その下流分子であるアポトーシス促進因子MOAP-1の分解を亢進させることにより卵巣がんにおける化学療法薬抵抗性の一因になる結果が紹介された。このUBR5の発現亢進は他のがん種でもみつかっており、UBR5を治療標的とする新機軸の治療戦略が提案された。さらに後半では、細胞内の結合分子探索手法としてBiFC/GFP-Trapシステムを開発し、この新しい生化学的手法によりCaspase2活性化の新たな機構を解明した成果についてお話しいただいた。アポトーシスというよく解析されてきた細胞事象に、新たな展開を見出したという意欲的な講演であった。

続いて、ヘルシンキ大学の牧功一郎博士の「張力感知分子およびクロマチンを介したメカノトランスダクション」として、力学的な刺激を細胞内の生化学シグナルに変換する過程(メカノトランスダクション)を通じて、力学環境、特に静水圧に対する軟骨細胞内に生じる核内生体分子の反応についてお話しいただいた。細胞外からの圧力負荷により、細胞内の転写抑制およびDNA複製の遅延が生ずることについて、それらの分子的解析の結果が紹介された。生体内に生ずる物理的な力に対して、細胞がどのようにして反応するのか、力学という物理学のアプローチから細胞生物学の課題を解明するナノバイオメカニクス、メカノバイオロジーという新たな学問領域についての講演であった。

第二部では、京都大学iCeMSの亀井謙一郎博士の「マイクロ・ナノ工学による生体システムの再構築への挑戦」として、まず、細胞外微小環境を再現するための細胞外マトリックス構造を模倣したナノファイバーマトリックスに関する研究を紹介いただいた。ナノファイバーとマイクロファイバーを組み合わせた強度のあるFiber-on-Fiberの開発により、従来法に比べて、短い培養期間で高品質なヒト多能性幹細胞の大量培養が可能となり、再生医療への貢献が有望視される。さらに、マイクロ流体デバイスを応用し、生体内の循環器系を模倣したBody on a Chipの開発事例が紹介された。閉鎖循環系とマイクロバルブ・ポンプを搭載した本デバイスは、生体内に近い組織間相互作用を実現することが可能であり、創薬プロセスにおける動物実験や細胞アッセイに代わる新たな試験法として期待される。
これらの講演を通して、生化学、力学、ナノ工学というそれぞれの科学領域において、新しい解析技術が次々と進みつつある現状が理解された。今後の発展に注目するべきである。

亀井謙一郎博士(左)
松浦顕教博士(中)
牧功一郎博士(右)